今、欧米では若者たちの間でレコードが売れています。どうして今、レコードなのか、そのワケは?

Record Store Day
Record Store Day

欧米で今、レコードが売れています。

「レコード」と聞いて皆さんは、何をイメージしますか?過去のメディア、懐古主義、ノスタルジー、音が悪い、面倒くさそう、ムズカシそう、マニアの世界.... きっとそんな印象をお持ちの方も大勢いらっしゃるでしょう。

店頭で見かけることも無くなり、実家の押入れや戸棚の脇に陽の目を見ることもなく、ひっそりと置かれている姿を見る程度でしょう。

 

アナログ・レコードは家から持ちだしてクルマや電車の中で聴くこともできず、保管に場所を取るし取扱いもデリケート、尚且つレコードプレーヤーやアンプが無ければ音楽が聴けません。これに比べ、昨今のデジタルポータブルプレーヤーは物凄い数の楽曲を1つのポケットサイズの端末に記憶させ、手軽に音楽をどこにいても身近に楽しめます。実に便利な時代になりました。

 

しかし一方でサウンドクオリティーに対する関心や、1つ1つの楽曲に対する認知度が希薄になり(欧米ではFaceless / 顔が無い、と表現されています。)、言わば音楽が「使い捨て」のように感じている方も多いのではないでしょうか。この音楽が良くも悪くも手軽になってゆく中で、驚くことに往年の音楽ファン達以上に物足りなさを感じていたのが若い世代だったのです。

 

皮肉なことにデジタル技術の進歩によって10年程前から急速に広まったインターネットは、若者達がこれまで知ることもなかった過去の素晴らしい楽曲やアナログレコードの情報に触れる機会を大幅に増やしました。過去の偉大なアーティストの楽曲に興味を持った彼らは、その作品となるアルバムを所有したいという衝動にかられ、そして実際に手にした時に感じるジャケットの芸術性や、歌詞カードから読みとる知的な詩の世界、そして一度演奏が始まれば、レコードの最初から最後までスピーカーの前で音楽と真摯に向かい合う姿勢が育む新たな音楽的発見、そして何よりも奏でられる音の素晴らしさに感受性豊かな若者たちは深く感動を覚え、次々とコレクションを増やし続けているのです。

 

また同時にミュージシャン側が積極的に新譜をアナログ・レコードでリリースしているムーブメントもアナログ・レコードの市場拡大に拍車を掛けています。ここでも若いアーティスト達の自分の作品を芸術性の高い有形な記録メディアであるアナログ盤で世に残したいという強い想いと、いい音で彼らの音楽をリスナーへ届けたいというミュージシャンとしてのプロ意識が市場をけん引しています。またこれに触発された大物ミュージシャン達も、こぞって新譜をアナログ盤でリリースし、さらにはかつてのジャズやロック、クラッシックの名盤が様々なレーベルからリマスターされアナログ盤で再発売されています。欧米の音楽業界全体がにわかにアナログ・レコードで活気づいているのです。

 

販売形態に関しても変化が現れています。これまでインターネット販売に押されて来たローカルレコードショップ等が中心となって、2008 年に最初の「Record Store Day」と呼ばれるイベントが開催されました。

 

「レコード・ストアー・デイ」は全米700以上、英国や全世界で数百を数えるレコードショップとアーティスト達が一体となって近所のレコードショップに出向き、音楽やアナログ・レコードを手にする面白さを共有する年に一度の祭典です。(毎年4月の第3土曜日に開催)多くのアーティストがライブを行なってファンと交流したり、その時だけに販売される限定レコードやグッズがリリースされ、年々その規模は拡大しています。

※「レコード・ストアー・デイ」のサイトへ(英語)

 

※「レコード・ストアー・デイ・ジャパン」のサイトへ

 

2011 年の開催時には、「レディー・ガガ」や「ビートルズ」の限定レコードがリリースされ、2012 年には「ABBA」や「デヴィッド・ボウイ」、「ケイト・ブッシュ」、「メタリカ」、「マイルス・デイヴィス」、「ポール・マッカートニー」、「ピート・タウンゼント」、「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」、「セックス・ピストルズ」、「T.Rex」他、多数のアーティストによる限定アナログ・レコードがリリースされ大いなる盛り上がりを見せています。

 

これらの動きにより、音楽市場全体が縮小する中で、2007 年から増加に転じたアナログ・レコードの売上は、2011 年には全世界で前年比約40%の上昇率を記録し、2012 年の上半期においてもその増加傾向は続いているのです。

(追記:2013年、英国では前年比100%の上昇、またアメリカでも前年比32%の上昇と報告されています。音楽産業全体のシャアとしては、まだマイナーですがこの勢いは無視できないほどの規模にまで成長して来ています。)

 

アナログ・レコードの音をまだ聴いたことのない若いミュージックファンはもちろんのこと、かつて多感な青春時代をアナログ・レコードと共に駆け抜けた皆さんにも、もう一度アナログ盤から奏でられる音楽を聴いてみて欲しいと強く思います。

そこには信じられないほど豊かな音楽情報が、アーティストやエンジニア達がリスナーへ届けようとした熱き想いが詰め込まれています。

 

特に現代の洗練された音響装置を駆使してアナログ盤の音楽が再生された時、デジタルとはテイストの違う、自然で、生命力に溢れ、色気と躍動感のある響きに驚嘆の声を上げることになるでしょう。

そしてアナログ・レコードが決して過去の古びたメディアでなく、現在も進化を続ける素晴らしい音源であることに気付くことでしょう。

是非、あなたも新しい音楽の衝撃をアナログ・レコードから体感して下さい。